約 1,077,049 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/147.html
深夜 ドッピオはルイズから渡されたカードを使っていろいろと不思議に見せるための特訓をしていました ちなみに渡されたカードはトランプでした。案外この世界に流れ着いているこちらのものはあるようです カードの扱いに慣れてきたところでもう眠気がきたので寝床に就こうとしますが コッ・・・コッ・・・ 物音が聞こえます。これは足音でしょうか コッ・・・コッ・・・・・・・・・ ルイズの部屋の前で足音は止まりました ・・・こんな深夜に誰かと思いドッピオはドアを開きました 「・・・あれ?」 そこには誰もいませんでした。確かに足音は聞こえていたはずですが・・・ 「あの」 「うひゃい?!」 突然左から話しかけられました。そこにいたのは 「・・・どちら様でしょうか」 「あの・・・アンリエッタと申しますが・・・貴方がルイズの使い魔ですか?」 「はい、そうですけど・・・ルイズさんに用ですか?」 「はい・・・」 よく見ると服装も学院生とは違う服装です 「・・・ルイズさん。起きて下さい」 ユサユサとルイズを起こします 「・・・なによ。こんな時間に・・・」 寝ぼけ眼で起き上がるルイズですが 「・・・?!」 アンリエッタを見た瞬間とても驚いた顔をします 「・・・ルイズさん?」 「す、すいません!このような無礼な格好で・・・」 いきなりあわただしくするルイズを見てドッピオは (・・・もしかしてアンリエッタさんは偉い人なんですか?) 小声でルイズに聞きます。帰ってきた返答は (当たり前じゃない!トリステイン王国の王女・・いや、今は女王になった方よ!) そう返されました 「早く部屋へお入りください。この様なところにいたと知られれば・・・」 そう言ってルイズはアンリエッタを手招きしました 「そうですね。でもそんな言葉遣いなんてしなくていいですよルイズ ―――私たち、友達でしょう?」 友達という言葉に一瞬気を取られそうになったルイズですが 「いえ、たとえ幼少時の遊び相手である私でも失礼に値するような言葉遣いなんて・・・」 そう言って自制しました 「・・・ところで」 アンリエッタの視線はドッピオに流れました 「これが貴女の使い魔ですか・・・」 その言葉にルイズは 「あ、あのえっと・・こ、こんな平民でもとても強くて―――」 「分かっています。なの土くれのフーケを倒したのでしょう?」 「え?」 ルイズはなぜ知っていると言う顔でした 「王家から守れと言われている破壊の杖を学院は秘密裏に取り戻したつもりだったんでしょうが そんな一大事が発生したら王家からの諜報が働きます。活躍も聞きましたよ、ルイズ」 「そ、そんな・・殆どこの使い魔が倒したようなものですし・・・」 ルイズはしどろもどろになりながらそう答えました 「・・・明日の品評会。楽しみにしていますよ」 「はい!」 そう言ってアンリエッタは戻っていきました ドッピオは結局何も喋らずじまいで女王さまを見送りました 「・・・女王様と知り合いだったんですね」 「ええ・・・」 ドッピオはアンリエッタが品評会を楽しみにしていると言うことを聞いて 「もしかして見に来ちゃったりしますか?」 そういうことかと思って聞いてみました 「そうよ・・・だから絶対ドジ踏んだりとかしちゃダメよ」 ようするにルイズはいいところを友人に見せたいのです 「それにしても驚いたわ。まさか前日にたずねてくるなんて」 「案外行動力のあるお姫様なんですね」 「そうね・・・子供のころはいっつも私が連れまわしてあげてたんだけどね・・・」 遠い昔を見つめるように窓から空を見上げているルイズ 「・・・絶対に失敗は出来ないな」 少しでも友人にいいところを見せたいと願う主人に愛らしさを覚えながらも明日の品評会に熱意を燃やすドッピオでした 14へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2538.html
◆ ◆ ◆ 会場のホールに着いたときには、舞踏会はもうはじまっていた。安っぽさのない華美な装飾や、食物とも見えないほど見事に盛られた馳走の数々、常の様子とはうって変わって優麗に動く生徒の群れが、まさしくと思わせた。リキエルは、ルイズがどこかにいはしないかと目をせわしなくしたが、とても見つけられるものではなかった。 リキエルは学院長室を出た後、一度ルイズの部屋に戻っている。だが、ルイズの姿はなかった。というよりも、女子寮全体にあまりひとの気配がなかった。舞踏会のために、皆どこかの控え室ででも、準備を整えているのだと思われた。 舞踏会の華やぎにしみは作るまいと、リキエルは目立たぬように壁際を歩き、そのままバルコニーに向かった。どうせ平民は正面からでは入れないだろうと思い、厨房をたずねて、給仕のために設定された入り口を使ったのが幸いしている。また傷みの増したスーツではさすがにまずいと、厨房で給仕用のシャツとズボンを拝借したのだが、その程度ではごまかしにもなっていなかった。 歩きながら、時折リキエルは人目を忍ぶ動きで食べ物をつまんだ。そうするうちに、タバサやキュルケの姿を認めることは出来たが、どうにもルイズは見当たらなかった。あるいは、まだ準備に手間取っているのかも知れなかった。 バルコニーに出た。一角にはひとがおらず、孤独にぽつんと、水も置かれない小さなテーブルがあるばかりである。リキエルは、顔を上向けた。 雲もかすみもなく、澄んだ空気だけがあった。ともすれば腰の引けてしまうような、満天の星空である。リキエルは何をするでもなく、凝然と夜の光に目を焼いた。 と、その視界に奇妙なものが入り込んで来る。そう思って意識しなければ、目の錯覚か、星明りの軌跡としか見えないほどの、細かな白い筋である。しかし、そういう曖昧なものでも数を十、二十ともすると、気に留まるようになる。 縦横に動き回るそれらの中の一本が、不意に群れを出て、リキエルの前に飛んで来た。動きがそうなら、形も奇妙な生き物だった。蛇のような棒状の白い体に、幾枚かの羽らしき膜がついている。虫とも何ともわからない。 ――スカイフィッシュ、ロッズと呼ばれる生き物がいるが……。 こいつらが、そうか? リキエルは一昔前に見た、うさんくさいテレビ特番や、本屋でぱららと適当に流し読んだ、未確認生物の特集本のことを思い起こしている。目の前の生き物が、果たしてそれらに出て来たロッズなのかはわからないが、リキエルは便宜的にそう呼ぶことにした。 世界各地で目撃され、その存在と生態とが取り沙汰される奇妙な生物たちの一つ、それがロッズだが、そんなもののことは、昨日までは名前すら思い出しもしなかった。こうして目の当たりにしなければ、終生そのままかも知れなかったわけだ。パーティー会場に分け入って行くロッズを眺めながら、リキエルはそう思った。 ロッズの行く先には、ワイングラス片手に数人の女の子を侍らせた『青銅』のギーシュがいる。どぎつい色彩の服装だったから、こいつはすぐに判別がついた。 それから数秒して、唐突にギーシュの肘が不自然に屈曲した。結果、色男は手に持ったワインを、目の前の女子に引っ掛けることになった。リキエルは鼻を鳴らして、わやわやと騒がしい顛末から目を離し、また宙に投げた。 いまロッズを呼び、またギーシュへ向かわせたのは、リキエルの意思だった。操ったのである。そう出来るとリキエルが気づいたのは、フーケと渡り合っている最中、ゴーレムを倒した直後であった。 気づけばロッズたちは、リキエルの頭上を円を描くように飛び回っていた。はじめは、こいつらもこの魔法の世界の不思議生物か、くらいに思って眺めていたのだが、その動きが自分の視線の動きと連なっていることを、リキエルは次第に理解した。 そこに及んだとき、リキエルの胸の内にあったのは歓喜だった。戸惑いはなかった。ロッズを操るその感覚は、以前から手の中にあったように思われるほど、自然だった。何より新しく能力を得たことは、すなわち自分の中にあるものが、確実に変わったことの証といえた。 そして喜びは確信を伴っていた。根拠もなく、フーケを倒せるという無闇な確信が、あのときリキエルを突き動かしていたものの正体である。フーケとルイズらの問答を尻目にしつつ、試しにロッズに自分の腕を襲わせてみて、その能力の僅かな把握には至ったが、実際に何がどうなっていたのかなどは、いまも正確なところはわかっていない。 ――これからわかればいいことだからな、そんな、こいつらのことなんかはよォ~~。 そうだ、これからだ。半ば傲然と思いながら、リキエルは自分の手首に目を落とした。 そこには、これまた奇妙なものがへばりついている。蛙と鳥とカブトムシを足してうっかり二で割ってしまったような、有機とも無機ともつかないデザインの何物かである。ふとしたときには煙のように透けたり、思いのまま透過させたりも出来るから、物体なのかも怪しいところである。しかもこれは、リキエルの意思で自由に発現し、消失するらしいのだ。 ロッズを操れると気づいたとき、どこからともなくあらわれたものだった。あるいはこれを出し入れ出来るようになったために、ロッズを操れるようになったのかも知れない。いずれにせよ自身の変化の証だと思えば、リキエルは見ているだけで、気分が浮き立つ感じもするのだった。 ホールでは、すました顔の楽士たちが音を合わせている。それと一緒に鼻歌でも歌ってやろうかと、リキエルが思ったときだった。門の方で、ルイズの到着を告げる声が上がった。やはり、少しばかり時間を食っていたようである。 いつの間にか会場には、優しく囁くようにして曲が流れている。ルイズはそこに、普段にない静々とした足取りで入って来る。バレッタで纏め上げられた髪の色が、肌の色とともに白いドレスによく映え、さながら花といった風情である。うっすらと紅を差し、化粧までしているのが可憐だった。 そちらに向き直った生徒たちの間に、ざわめきが広がって行く。 「なんだ、これは!? ルイズ・ヴァリエール……まさか!」「久しく忘れていたぜェ…ルイズが美人ってことをよォォォォ」「ば…化けた! 深い後悔が、ゆっくりやってくるッ! 唾をつけていればああああ」「可愛い! スゲェ可愛いッ! 百万倍も可愛い!」「この感情…こんなことがッ!! あ…あいつはッ!! ゼロだぞッ! あんな…ヤツにッ!!」「描写のないまま終わり。それがモブシーン・エキストラ」「何も泣くこたあーね―だろーがよ~~~。お前だって十分に綺麗さ」 男連中は、常のルイズを知る者もそうでない者も、皆だらしなく鼻の下をのばした。女子たちからも、驚きや感嘆の声が少なからず上がる。一部の色男は、是非にも手を取り合って踊ろうと、早速にルイズを口説きにかかっていたりする。 折も折、そこかしこで出来上がったペアが、曲に合わせて踊り始めた。ルイズの小さな晴姿は、たちまち人いきれの向こうに消えた。 リキエルは軽く嘆息した。フーケを前にした言い合いの後は、ルイズとはここまでまともな会話もないまま来ている。昨夜からのわだかまりも、はっきり解けたとは言いがたい。そういう諸々もあって、ルイズとは少し話がしたい気分になっていた。 ――部屋に帰ってから、とするか。他に仕方ねえしよ~。 そう思い切って、ホールから外の景色に目を戻した。二つの月は、今日もともに明るい。遠くに連なる山々も、ただ黒いばかりの影とはならずに、陶磁器のように青白い光を返している。夜気に冷まされた風が、包むような動きで吹きつけて来たが、寒々しさはなかった。 そのまま手すりに腰を預けて、またギーシュあたりにでもロッズをけしかけてみようか、などとぼんやり思っていると、不意に声をかけられた。 「楽しんでるみたいね」 振り向けば、呆れたようなルイズの顔が見上げて来る。そこいらのテーブルから持って来たらしいワインボトルと、グラスを二つ手にしている。 ボトルとグラスを脇のテーブルの上に置いて、ルイズは続けた。 「どうしたのよ、その格好は。牛柄じゃないのね。おかげで探すのに手間取ったったら」 「よお。格好といえば、お前の方だぜルイズ。変われば変わるもんだよなあああ、あんな泥だらけだったのが。すっかりめかしこんでよお。誰のコーディネートか知らないが、いい仕事をしたよな」 「何も出さないわよ。あんただって、もっといまみたいな格好したらどうなの。けっこう整った顔してるんだし、おしゃれに気をつかってみなさいよ」 リキエルは肩をすくめた。 「ってもなあ、持ち合わせは一着きりだぜ。あのスーツだけだ」 「そういえばそうだったわね」 あっさり言うと、ルイズは疲れたようにテーブルについた。実際、疲労はあるはずだった。フーケを捕らえてからこちら、十分に休めてはいないだろう、身体的にも心の面でも。ただルイズの表情は、どこかさっぱりとしたようでもあった。 のんびりとした動作で、リキエルも席についた。二人は対面の位置に座っていたが、それでも小さなテーブルだったから、互いの距離はほとんどないようなものである。 「お前は踊ったりはしないのか? 主役だろうに」 ホールの中央、先ほどルイズと彼女を取り巻いた連中のいた辺りを目で示しながら、リキエルはたずねた。 「踊ろうにも、相手がいないわ」 「誘われているようだったじゃあないか」 「いいのよ、あんな連中は。いままでさんざん馬鹿にしてくれたくせして、何よあの態度。結局馬鹿にしてるわ、まったくね。きっとあんた踊ったほうがよっぽど楽しいわ」 「使い魔とかよォ~?」 言ってリキエルはへらへらと笑ったが、ルイズは「ええ、そのとおりよッ」と膨れた面をそのまま戻そうとしなかった。 そうしてしばらく憤然としていたルイズだが、急に何か思うような顔になって、短くひとつ息をついた。それからリキエルを真直ぐに見て、小さく言った。 「信じてあげるわ。あんたが別の世界から来たってこと」 「突然だな。つーか、信じてなかったのか」 「半々、ってところね。だけど、あんたとフーケとのやりとりをね、思い返してみたの。そうしたら、けっこう信憑性あるんじゃないかって思えたわ」 言葉を切って、かすかな逡巡を見せたあと、ルイズは続けた。 「あんたが帰る方法、探すわ。すぐには無理だけど、きっと見つける」 「気を張ることもねーぜ、そんなにはな。帰って何があるでもないんだ」 リキエルはそう返した。いささか締まりに欠ける顔でいるものの、これは本心から出た言葉である。 元の世界に帰りたくはないかというのは、実はオスマン氏からもたずねられた。リキエルが学院長室を出る間際、氏が思い出したように聞いてきたのである。そのときもリキエルは、大体に同じような返事をしている。 恋人を残して来たのでもなく、大切な約束を残して来たのでもない。だから元の世界に、それほど強い未練はなかった。そしてまた、郷愁を感じるにもまだ早い。この世界での生活に不安がないではないが、もうしばらくの間、経験という意味でとどまる分には、むしろ望むところであった。 リキエルは言ったが、ルイズはそれをのけるようにしてなおも言い募った。 「それでも、探すわ。……ねえ、ひとつ聞いていいかしら。どうしてフーケを捕まえようとしたの?私の手柄になる、とかって言ってたわよね。あれは、私の心を慰めようとしたの?」 「いや、押し上げたいと思ったからだ。感銘を受けて、オレの力で、どうにかして助けになろうとした。それが、オレ自身の成長にも繋がると思った」 「私もそう。私もあんたを尊敬してる。だから、あんたが元の世界に帰る方法を探すの。これは、あんたを召喚した私のけじめで、あんたに出来る数少ないこと」 思わず、リキエルはルイズの目を見返した。瞬きしない大きな鳶色の瞳に、真摯な光が見える。 軽い驚きがあった。驚きは、自分とルイズとの間に横たわっていた距離が、突然に狭まったように感じられたことから来ている。すぐにも交わりそうでいて、しかしどこか決定的な部分でそうならなかったものが、いまはがちりと噛み合っている。そういう感覚があった。 そしてそれは、決して心地の悪いものではなかった。 しばしの間、ふたりは半ば睨み合うようにして向き合っていたが、不意にルイズのほうは視線を外して、またなにか逡巡する体になった。今度のそれは長く、そしてよほど難解らしかった。ルイズは困惑とも苛立ちともとれるような顔をして、腕まで組んでいる。 どうかしたかと思いつつそのまま眺めていると、ルイズはいまいちよくわからない顔のまま、いきなり置いてあったグラスを突き出してきて、言った。 「仲直りしましょう」 「仲直り?」 ルイズは頷いた。 「あんたは私を羨ましいと言ったけど、私はあんたが、あんたのどうしてでも前に進んで行こうって態度が、眩しく思えた。だから、お互い様ってことで、仲直り」 「…………」 「あ、笑った。いま鼻で笑った! 聞こえたわ! 何よ、おかしいことないでしょッ!」 ――ああ、そうだな。なあ~~んにもないな……。 おかしいことなんてのはな。のどの奥で笑いながら、リキエルは思った。 笑ったのは、単純にうれしかったからだ。言葉は過ぎるほど足りていないが、言わんとしているところは十分に伝わってきた。ゆうべのことや、今日の言い合いのことを考えていたのは、なにもリキエルばかりではなかった。はっきり仲たがいしていたのではないから、仲直りというのは少し変かも知れないが、それもいまは些末なことだった。 「なによ、もう」 むくれ顔でルイズはこぼしたが、それ以上つっかかることもしなかった。へそを曲げたような、それでいて快さも見える表情を浮かべながら、「今日だけだからね」と小さく言って、リキエルのグラスにワインを注いだ。深い赤のワインだった。 自分の分も注ぎ終えると、ルイズはさっそくグラスをとった。リキエルもならう。 「じゃあ、乾杯しましょう。仲直りと、それから……両目にとかどうかしら」 「両目? オレのか」 「うん。あんたのばっちり開いた両目に、乾杯」 「ふぅ~ん。なるほど、いいかもな。フーケも捕まえたしな」 どちらからともなく、ふたりは目の高さにグラスを掲げた。 「使い魔の両目に」 「主人のお手柄に」 と、華やかなダンスホールの片隅で、小さく祝いの声が挙がる。 ここからだ、とリキエルは思った。ここから始まるのだ。召喚され、契約の魔法でふたりは繋がった。だが、使い魔とメイジの関係が出来上がったのだとすれば、いまがそうだった。それを祝福するものと思えば、こうして杯を交わしあうことも、何か特別なものに感じられてくるのだった。 ――ゼロのルイズと、ゼロの使い魔に。 心のうちでそう付け加えながら、リキエルはグラスをぐいと傾けた。香りを楽しむようなやり方は知らない。ルイズはそれをたしなめるような、呆れるような顔で見たが、すぐ思い直したようにくすくす笑った。そういう気楽さが、また心地よかった。どうせ水入らずの酒席である。 しばらくして、そこに踊る相手に恵まれなかったらしい、『風上』のマリコルヌが通りかかった。どうしてか涙目で、やたらと棘の多い葉のサラダをぱくついている。 「おっどろいたなあ。ワインを注ぎあう使い魔とメイジなんてね。初めて見た」 馬鹿にしたふうでもなく、心底から驚いた様子でマリコルヌは言った。 リキエルとルイズはマリコルヌのほうへ振り向くと、酔いが回って赤くなり始めた顔を笑わせて、手に持ったグラスを掲げ上げた。 ◆ ◆ ◆ 夜更けである。少し前から、ちょっとずつ雲が出始めていて、いまもひと際大きい雲の影に、双子の月が隠れたところだった。大きくも薄い雲であったから、さほど闇が深まるでもなかったが、どこか不吉な夜のさやけさはいや増すようだった。だがフーケは、そんなことを知る由もない。 ぶち込まれた詰め所の内の牢には、窓がなかった。ついでに調度の類もなく、ぼろく小さな椅子と、それが寝床ということなのか、大量のわら束があるばかりである。そのわら束に寝そべったまま、フーケは身じろぎひとつしない。寝ているのではなかった。その証拠に彼女の両目は、どこからか微かに入ってくる光を鋭く返している。 ――たいしたもんじゃないの、あいつらは。 フーケは昼間のことを、自分を捕らえた人間たちのことを思い返している。わけてもリキエルの奇怪な言動は印象に残っていた。 思えばあの平民は、初めの出会いからして普通ではなかった。どころか、顔を合わせるたびに厄介なことになっていた気がする。いまにも死にそうなうめき声を上げていたり、これまた死にそうな有様になっていたり、なぜかそれを自分が介抱したり。遂にはわけもわからないまま捕まってしまった。 例外は、いつだったか早朝に顔を合わせたときだろうか。そのときはたしか、どうにかして宝物庫を破れないかと、朝の散歩がてら思案していたのである。そういえばあの男の一言で、思いがけなく宝物庫破りに活路が見出せたのだ。もっとも、結局はあのゼロのルイズのおかげで、なんとか破ることが出来たのだが。 いまにして思えば、宝物庫のとき一息に踏み潰してやっていれば、こんな寒々しい牢の中に転がされることもなかったのだろう。だが、フーケはそれをしなかった。出来なかったのである。 感傷があるのではなかった。リキエルの苦しむ姿を見、それまでのわずかな交流を思い起こし、哀れと思わないでもなかったが、そのままほだされてしまうほど自分は甘くはないつもりだったし、実際に主従ともども踏み潰す気でいた。 ただほんの数瞬、ためらった。ゴーレムの足を止めてしまった。なぜかは、フーケ自身にもわからない。理由があるとするなら、あのとき一瞬だけリキエルと目を見てしまったことだ。 爽やかな目、とでもいうのだろうか。意識ははっきりとしているようだったが、リキエルはどこも見てはいなかった。もし見ていたのなら、それはたぶん空だった。恐怖や諦めはなく、涼やかさのようなものをたたえた片側だけの瞳で、じっと空を見ていた。その目を見たとき、フーケは我知らず動きを緩めたのである。 ――本当に、あいつはなんだったんだろうね。 フーケは、最後にリキエルと交わした言葉を思い出した。 質問があると言って寄って来たリキエルは、数年来の知り合いか、友人のような気安さでフーケに話しかけたのだった。 ――よお、悪いな。こんなことに……いろいろと助けてもらっといてよォー、恩を仇で返すようなことになってしまってな。恨まないでくれると、オレはとても嬉しいんだが、どうだろうな? ――だんまりか。仕方がないことか、こんな与太話なんかにつきあわせてな。さぞ面倒に思っているだろう。あ、聞きたいことってのはこれじゃあないんだ。真剣に聞きたいことは別にある。 ――それじゃあ本題に入るぜ。答えてくれなくても、それはそれでいーんだがな。……いいか、聞くぜ。初めてお前さんと会ったときのことだ。オレは、馬鹿みたいにうめいていたよな。それをお前は、走り寄って助けてくれた。なんの益にもならないのにな、不審者だったかも知れないのにな。あれは、どうしてだ? ――『人当たりのいいロングビル』としては、そうするべきだと判断したのか? それとも、単なる同情か何かだったのか? 適当なことを言って、そのまま流してしまってもよかった。意図の読めない、よくわからない問いであったし、それに付き合う義理はまったくないはずだった。状況を考えれば、リキエルの決して望まないであろう返答をしても、なんらそしりを受ける筋合いはなかったろう。 だがフーケは、真実思ったことを言う気になっていた。口調はふざけているようだが、リキエルの態度には真摯なものがあった。なんとはなしに、それに応えてみるのも悪くないと思っていた。それに、意地を張っても仕方がないという気持ちもあった。 ――咄嗟だったからよ。判断とか、計算とか、少なくともそういうのじゃなかったね。 ――オレはお前を捕らえる気でいる。それはこの問答によって左右されるようなものでは、弱い意志ではないのだ。だが今……『咄嗟』と言ったのか? 咄嗟にオレを助けたと……? オレが、そう答えてほしいと願う……『やさしい』答えだが、本当なのか? 本当のところは、それか? フーケは頷き返した。 ――弱い意志じゃあないとキッパリ言ったばかりだが、……スマン、ありゃウソだった。お前のことを少し見逃したくなったぜ。 ――でも、そうしないんでしょ。 ――そうだな。……しかし、答えをもらえてよかった。 また食事でも出来るといいがな、そういう縁があればよォ。最後にそう言う声を耳にしながら、フーケの意識は途切れる。 最後の最後まで、それもひとの腹に一撃くれながら、奇妙なことを言う男だった。『土くれ』のフーケといえば、それなりに名の通った悪党である。捕まれば縛り首か打ち首か、よくて流刑遠島が筋である。まずもって、二度と顔合わせはないだろう。 ないだろう、と思っていたのだが。 ――諦めるには、随分と早い。 考えてみれば、やりたいことも、やらなければならないこともある。ここで投げ出してしまうには、過ぎた重みのものもある。潔い覚悟を決める前に、足掻いてみようという気にフーケはなっている。 あてられたかも知れないと、ふと思った。初めは、なんて不景気な顔だろうと思っていた。が、対峙してみたときの顔には、輝くようなものがあった。自信があらわれていた。そういうリキエルの姿を目の当たりにして、触発されてしまったのかも知れない。 ゆっくりとフーケは腰を上げた。それから、格子の鍵に手を触れた。なかなかに強い『固定化』がかけられている様子だった。これは骨が折れそうである。 牢に入る前の検査で、隠し持っていた杖はすべて没収された。そしてそれがよかった。ここがかのチェルノボーグであったなら、歯の詰め物まで調べ上げられ、身に着けるものは鬘の毛までむしられていただろう。だが所詮は、詰め所の気ない衛兵の仕事である。最後までは気づかれなかった。 フーケは、懐から眼鏡を取り出した。指先に弦をつまみ、力をこめる。ぽきりと小気味よい音をたてて、弦は根から折れた。というよりも、外れた。この弦が、フーケの持つ最後の杖である。 ――ふたりの囚人がいた。 ひとりの囚人は壁を見ていた。もうひとりの囚人は星を見ていた。むかし、寝物語かなにかで聞いた話を、フーケは思い出していた。もうあらかた忘れてしまっていたが、そのうちの一節が、不意に思い浮かんで来たものである。私は、どっちだ。 ここには星の見える窓はない。 「もちろん、私は壁を見る」 ――それを破って、欲しいものを手に入れて来たんだからね。 フーケは格子に向き直ると、静かに心を研ぎ澄ませ始めた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1029.html
ポルナレフがルイズを助ける少し前のこと。 「いいか、よく聞け。フーケが出て来たのはチャンスだ。今なら奴を倒せるかもしれん。」 ポルナレフはシルフィードの上で二人に話し出した。「確かに出て来たのはいいけど、あたし達の魔法じゃきっと効かないわよ?」 「お前達の魔法じゃあ無い。あくまで可能性の話だが…」 タバサが持っていた破壊の杖を指差した。 「その破壊の杖ならあのゴーレムを一発で破壊できるかもしれない。そして俺はその使い方を知っている。」 二人は驚いて、顔を見合わせた。破壊の杖を初めて見たばかりのそれもメイジではないはずのポルナレフが「使える」と言い出したのだ。 「だが、使うにはあそこにルイズがいると危険だし、距離と時間が必要だ。」 だからフーケの動きをしばらく止めてくれ、とポルナレフは頼んだ。 「ダーリンの頼みなら断る理由は無くてよ!それにルイズばかりかっこよくさせとくのも釈だし。」 「…(コクリ)」 キュルケとタバサは快く承知した。 ポルナレフはそれじゃあ頼んだ、とだけ言うと亀と破壊の杖を持って飛び降りた。 「はん!何わざわざ『土』は切れないなんて教えてんだい!これであんたの勝ち目は無くなったよ!」 フーケはゴーレムの腕を鉄に変えずにポルナレフに向かって撃った。 ポルナレフはルイズを抱えて急いで避けると、そのまま背中を向けて逃げ出した。 「逃がさないよ!」 フーケはゴーレムで後ろから追おうとしたが、 「ファイア・ボール!」 キュルケ達に邪魔された。「うざったい虫だね!」 空から来る二人の魔法に足止めを喰らうフーケ。ちらりとポルナレフの方を見ると、いつの間にか大分距離が開いていた。 ヤバイと思ったが、はたと気付いた。何故ポルナレフは破壊の杖を持って来たのだ?ルイズを助けるだけならば邪魔以外のなんでも… そしてフーケはニィっと口を歪めた。 (こいつは『当たり』だったようだね…。まあ、ゴーレムは犠牲になるかもしれないけど…) フーケはそう考えると今度は『わざと』じりじり後退していくような振りをした。 ポルナレフはフーケのゴーレムからある程度距離を取るとルイズを亀の中に入れ、破壊の杖を構えた。 「こんなものには頼りたくないんだがな…生憎チャリオッツじゃああいつには分が悪すぎる。」 ポルナレフはそうぶつぶつ言いながら慣れた手つきで破壊の杖の安全ピンを抜きとり(めんどくさいので省略)安全装置を外した。弾数は一発。失敗は許されない。 「タバサ!準備は出来た!すぐにゴーレムから離れろッ!」 ポルナレフがそう叫ぶとタバサは急いでシルフィードを上昇させた。 それを確認すると、ゴーレムに狙いを定めポルナレフはトリガーを引いた。 しゅっぽっと栓抜きのような音がして羽がついた大きな弾が白煙を引きながら飛び出した。 その弾がゴーレムの身体にのめり込んだ瞬間、その衝撃で信管が作動、弾頭は爆発し、ゴーレムを吹っ飛ばした。 だがその爆風の中、三人共気付かなかった。フーケが砕け散っていくゴーレムの残骸と共に落ちていく最中、笑っていたことに。 「後はこの土の中からフーケを探し出したらようやく終わりね。」 「…」 ポルナレフ、キュルケ、タバサの三人はゴーレムの残骸もとい土の山の前で立ちすくんでいた。ちなみに破壊の杖はすぐ近くの地面に置いてある。(ルイズはまだ亀の中で気絶している。) 正直言ってこの中から探し出すなんて面倒である。 「それにしてもダーリン。何で破壊の杖の使い方を知ってたの?」 「ノーコメントだ。」 「…ずるい」 三人がそんなやり取りを交わしている所に 「皆さんすいません。遅くなってしまって…てこの土の山は!?まさかフーケが…」 ロングビルが森の中から現れた。 「ああ、フーケが襲って来た。罠だったみたいだが俺がその破壊の杖で奴を倒し…「そこまでだよ。全員動くな。」!?」 ロングビルがポルナレフの言葉を遮った。その手には破壊の杖。 「ミ、ミス・ロングビル?」 キュルケがまさか、という顔をした。 「その通り。あたしが『土くれ』のフーケさ。 すまなかったねミスタ・ポルナレフ。あんたのお陰で全ては上手くいったよ。本当に感謝しているよ。」 フーケが嫌味ったらしく言った。 「成る程、やはりあれは嘘だったか。しかし、感謝しているならその破壊の杖を下ろしてもらいたいものだな…」 ポルナレフは静かに言った。 「駄目駄目。だってあたしの正体ばれてるのにここで逃がしたらあたしが大変な目に会うからね。 あんた達には残念だけど、これで死んでもらうよ。」 フーケがそう言って、破壊の杖の照準をポルナレフに合わせようとした時、ポルナレフはクククと笑い出した。 「?何笑ってんだい?」 「さっさと魔法で俺達を始末すればいいのに、貴様が無駄口叩いているのが面白くてな…しかもそれはな、」 ドサッ ポルナレフがそこまで言った時、いきなりフーケが倒れた。首の付け根に丸い凹みが出来ている。 「単発式…てもう聞いてないか。」 ポルナレフはロングビルが自分がフーケと明かした時、既にチャリオッツの剣針を飛ばしていた。 直接やらなかったのはフーケの位置までチャリオッツが届かなかったからだ。そして剣針は森の木々に反射し、見事フーケの首に命中したのだ。 「まさかミス・ロングビルがフーケだったとはのう…」 四人の報告を受けたオスマンは多少残念そうに言った。オスマンいわく、酒場で給仕をしていた彼女の尻を故意に触ったのだが怒らなかった、という理由だけでスカウトしたらしい。 その場にいたコルベール含む五人全員「死ねばいいのに」と思ったのは言うまでもないが、コルベールとポルナレフの親父二人はまあ、色々あったので少し同情した。 とりあえず体裁だけ整えてからオスマンはルイズとキュルケにシュヴァリエ、タバサには精霊勲章を申請しておくと言った。 その言葉に三人は誇らしげに礼をしたが、ルイズはあることに気付いた。 「オールド・オスマン。ポルナレフには何も無いのですか?」 「残念じゃが、彼は貴族では無いのでな…」 「そんな…」 1番手柄を立てたと言えるポルナレフには貴族では無いというだけで何も無いのか、ルイズはその理不尽に憤慨したが、ポルナレフはその肩を叩いて、 「俺は別に何もいらない。色々訳ありでな…」 と言った。 その言葉にルイズは渋々頷いた。 「それはそうと今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『破壊の杖』は戻ってきたし、予定通り執り行う。 今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意してきたまえ。せいぜい着飾ってくるのじゃぞ。」 三人が礼をしドアに向かったがポルナレフは行こうとしなかった。 「ポルナレフ?」 「先に行ってろ。こいつらと話がある。」 ルイズは納得いかなかったが、渋々出て行った。 「何か、私に聞きたいことがお有りの様じゃな…言ってごらんなさい。 出来るだけ力になろう。君に爵位は…ああ、要らないんじゃったな。まあ、せめてもの御礼じゃ。」 「聞きたいことは二つある。一つはこのルーンだ。薄々気付いていたが、このルーンは剣やナイフを持つと何故か反応する…これは何だ?」 「うむ…それは伝説の使い魔の印じゃ。」 「伝説の使い魔?」 「さよう。始祖ブリミルの使い魔でガンダールヴと言う。彼の者はありとあらゆる武器を使いこなした、と言い伝えられておる。 コルベールの仮説じゃったがどうやら本物らしいな。」 「なるほど…だから破壊の杖も扱えたのか。しかし何故あの小娘が俺達をそのような使い魔として召喚したのだ?」 「すまんが、そればかりは分からん。」 「…まあ、いい。それよりだ。あの破壊の杖はどうやって手に入れた?あれは俺がいた世界の武器だ。この世界の技術で作れるはずがない。」 「君がいた世界…ああ、君が言ってた召喚される前の魔法が無い世界か…まあ、話すと長いのじゃが…」 オスマンが言うにはその昔ワイバーンに襲われ危機に陥った所を破壊の杖の持ち主に助けられたらしい。 「その男は?」 「死んだよ。酷い怪我を負っていてな…『元の世界に帰りたい』とベッドで言っていたよ。 彼は破壊の杖を二本持っていてな、それで彼の墓に彼が使った方を埋め、もう一本は宝物庫にしまったのじゃ。」 「そいつが来た方法なんかは聞いてないのか?」 「聞いたのじゃが、本人も分からんと言っておった。すまんな、力になれなくて。」 オスマンがすまなさそうに頭を下げた。 「別に構わない。ただ、俺や亀の様に来た奴がいる…それさえ分かればな…」 ポルナレフは立ち上がると一礼してから退室していった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2004.html
使い魔の兄貴(姉貴)!!-1 使い魔の兄貴(姉貴)!!-2 使い魔の兄貴(姉貴)!!-3 使い魔の兄貴(姉貴)!!-4
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1141.html
ルイズは城下町の通りをディアボロを従えて歩いている 目的地は武器屋、ディアボロに武器を持たせようというのだ ディアボロからすれば扱えない武器など邪魔になるだけなのだが、ルイズにはルイズの考えがあった (ディアボロの都合や意思は関係ないのだ) 決闘騒ぎでの思惑が外れたルイズはディアボロの評価について半ば諦めていた (ちなみにギーシュが人の使い魔を殺したことについては貸し一つという事で話がついた 生きているところを見られたら物凄い頑丈で実は生きてたと誤魔化す心算だ) たとえ力があろうとも振るう前に死んでしまうのでは意味がない だから見た目だけでもそれらしくする為、武器を持たせようと考えたのだ 幸いディアボロの体格は悪くはないから、物によってはそれなりに映えてくれるだろう 貴族とは縁遠そうな路地裏を進んだ所に武器屋は在った 中に入ると慌てた様子でまくしたてる店主を無視して、ディアボロに合う武器を見繕うよう言いつける 店主が店の奥から何振りかの剣を持って来てあれやこれやと口上を述べ立てる ルイズはその中から特に立派な一振りに目をやった 「これは?」 「ああ!若奥様、御目が高い。 これはかの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿の鍛えた業物で、鉄さえ切り裂く代物でさぁ 御値段の方は相応に張りますが、貴族の従者に持たせるんであればこれ以上のものはございませんぜ」 振るどころか抜くのも苦労しそうな大剣だが、ルイズにしてみれば見た目重視で実用性などどうでもいいのだ 「これにするわ、おいくら?」 「エキュー金貨で2千、新金貨なら3千」 「おい親爺、ボリすぎだろソリャ」 唐突に声が響いたかと思うと抜き身で壁側に積んであった剣が一斉にディアボロ目掛けて崩れ落ちた 「………………………………………………………………………………」 「あれ?これってオレのせい?」 ■今回のボスの死因 崩れ落ちてきた剣に全身を串刺しにされて死亡
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/982.html
いつもと変わらぬ朝食。 いつもと変わらぬ授業風景。 いつもと変わらぬトリスティン魔法学院。 多くの生徒達にとっては、いつもと変わらぬ日常だった。 ギーシュは疲れていた。 魔法衛士隊隊長、ワルドの裏切りを知り、ギーシュは自分の人を見る目のなさを恥じた。 半裸のミス・ロングビルを連れて帰ってきたので、モンモランシーに問いつめられ、右の頬に紅い紅葉を作った。 更に、数日間の不在は浮気旅行じゃないのかと詰め寄られ、左の頬にこれまた見事な紅葉を作った。 そして傷の癒えたロングビルに礼を言われたのをケティに目撃され、その情報はモンモランシーに伝わり、年増ババァのどこがいいのかと詰め寄られて頭に大きなたんこぶを作っていた。 タバサは不在だった。 実家からの手紙に何が書かれていたのか知らないが、しばらく学校を休むそうだ。 キュルケの話では、こうしてたびたび実家に呼び出されるのだとか。 シルフィードに乗って実家に帰る前、タバサはルイズを心配していた。 キュルケは少し不機嫌だった。 普段通り授業を受けてはいるものの、タバサがいないと調子が出ない。 その上、ゼロとあだ名される生徒の席が、ここ一週間ばかりずっと空席だった。 その席を見ては、時折ため息をつき、つまらなそうにしていた。 シエスタはどこか落ち着かなかった。 いつものように食堂のテーブルクロスを洗濯する。 いつものように食器を洗う、いつものように配膳をする。 しかし、いつもより一人分足りない。 ルイズの姿を探しては、今日も居ないとため息をつく。 ギーシュやキュルケから、ルイズは今実家に帰っていると聞かされたが、それは嘘だと、なんとなく理解できた。 オスマンは相変わらずだった。 職務に復帰したミス・ロングビルの下着の色を、使い魔のネズミを使って調べるだけでは飽き足らない。 復帰祝いと称してロングビルに過激なビキニをプレゼントしたが、練金で瞬時に土くれに変えられてしまったため、いじけていた。 トリスティンの城、そのゲストルームに置かれた豪華なベッドの上に、一人の少女が眠っていた。 眠る少女の体中には包帯が巻かれており、その姿を同じ年頃の少女が見守っていた。 トリスティンの王女アンリエッタである、彼女はベッドの上に眠るルイズに治癒の魔法をかけていた。 「く…」 アンリエッタから苦しそうな息が漏れる。 キュルケ達がシルフィードでトリスティン城に降り立った時、アンリエッタがすぐに駆けつけなければ、ルイズは失血死していたかもしれない。 傷が塞がらないのだ。 出血はかろうじて止まったが、傷口は開いたまま、どんなに治癒の魔法をかけても、治癒の秘薬を用いても効果がなかった。 しかも秘薬の代金は国庫から出すことは出来ない、これはあくまでもアンリエッタが個人的に頼んだ依頼だからだ。 「アンリエッタ、私が代わろう」 「ウェールズ様…」 「アンリエッタ、君には公務がある、王女としての勤めを果たさなければ、ミス・ヴァリエールに笑われてしまうよ」 「………はい」 部屋に入ってきたウェールズは、アンリエッタの隣に座ると、慣れない治癒の呪文を唱え始めた。 一通り魔力が伝わるが、ルイズの身体に反応はない。 「マザリーニ枢機卿は、なかなかの切れ者だね」 「えっ?」 「僕はここでも身を隠すことになるようだ、当分は地下で過ごすことになる」 「そんな!」 「気にすることはない、本来なら私は死んでいたはずだ、ニューカッスル城と秘密港の崩壊で私は死んだと思われているので、 今の私を外交のカードとして利用させて欲しいととハッキリ言ってくれたよ。だが、その方がありがたい」 「………トリスティンの民から、私とマザリーニ枢機卿がなんと呼ばれているか、ご存じでしょうか」 「知っているよ、だが、王とはそうしたものだよ、王の立場にある者が、不用意に不快感をあらわにすると、王の権威を保つため不快感の原因となる要素は排除される。 平民は浴場で、風呂が熱い、ぬるいだのと文句を言えるそうだね、王族がそれをしたら浴室付きの侍女は皆、お役御免になってしまう、王族とは難儀なものだよ」 「私は、自分は操り人形ではないと意地になっておりました、ですから、私はマザリーニに気づかれぬよう、ルイズを利用したのです。私に…私に王女の資格などありませんわ…」 「アンリエッタ、いいかね、ミス・ヴァリエールは最後まで諦めなかった、最後まで…だ、ワルド子爵の裏切りを一番つらく感じていたのは彼女だろう、それでも彼女は君に与えられた任務を諦めなかった、それどころか、逸脱しようとした」 「逸脱…とは?」 「昨日までは、私は仲間達を残して一人生き残ってしまったと、後悔したよ。しかし、生き残ってしまったからには生きている者の勤めを果たさなければならない、ミス・ヴァリエールを恨もうとも思ったが、今で感謝しようと思っている」 「ウェールズ様、死ぬおつもりだったのですか…?」 「私は、皆の前で共に戦おうと宣言したのだよ、おめおめと生き残っている私を見て、天国の彼らはどう思っているのだろうね」 「そんな!ウェールズ様、どうか、もう死ぬなどとおっしゃらないで下さい!」 アンリエッタがウェールズの腕に、しがみつくようにして叫ぶ。 するとウェールズは微笑み、アンリエッタ手に手を重ねて言った。 「私はもう死ぬつもりはないよ、無様でも、部下を裏切ってでも、私は生きてアルビオンの魂を伝えねばならない。でなければ、私は彼女に顔向けできないからね…アンリエッタ、君はどうなのだ?」 「わたくし…ですか?わたくしは…」 アンリエッタはルイズの姿を見た。 包帯だらけで、呼吸も消えてしまいそうなほど細い、このまま治癒を続けても無駄だと王家の侍医は言っていた。つまり絶望的な状態なのだ。 「わたくしは…」 言葉を続けることの出来ないアンリエッタの肩を抱き、ウェールズはアンリエッタを自分へと向き直らせた。 「私は仲間を見殺しにした罪悪感にさいなまれた、だが助けられた以上は生きた王族としての使命を果たさねばならぬ、 彼女を使わせたアンリエッタ、君も彼女を傷つけた罪悪感に苛まれるのであれば、なおさら彼女のためにも君は王女として威厳を示さねばならないだろう… でなければ、私は彼女の決意を、無碍にすることになると思う」 「ウェールズ様…」 アンリエッタが何か言いかけたとき、扉を軽く叩く音が聞こえた。 「姫殿下、マザリーニでございます」 「入りなさい」 マザリーニは部屋にはいると、アンリエッタに一礼した。 「殿下、どうか公務にも顔をお出し下さい、それと、もはやミス・ヴァリエールを治癒して七日が過ぎました、どうかお考えを…」 「…わかりました、すぐにそちらに戻ります、下がりなさい」 アンリエッタはルイズの顔を見る、ルイズは相変わらず死んだように眠っていた。 マザリーニの言った『お考えを』というのは、ルイズへの治癒を打ち切るという事だ。 アンリエッタは、心の中でルイズに謝った。 「ウェールズ様、ルイズに、最後に、治癒をかけてあげたいのです、どうか、一緒に…」 「喜んで」 そう言うと二人は息を合わせ、同時に呪文を唱え始めた。 水のトライアングルメイジと、風のトライアングルメイジが、二つの魔法を一つにするという強力な秘術、王家にしか伝わらないこの技術をヘキサゴンスペルという。 本来ならヘキサゴンスペルは攻撃に利用するのだが、今回は慣れない治癒の魔法を二人で唱えた。 奇跡を願って、最後の可能性にかけたのだ。 そのころルイズは、暗闇の中にいた。 暗闇の中で、ルイズは承太郎に詰め寄られていた。 ウェールズを連れて帰る決意は、アルビオン貴族派の矛先をトリスティンに向けさせるという大きな代償を払う事となる。 それを知っておきながら、なぜルイズがウェールズを助けようとしたのかを、問いつめていたのだ。 「…難しいから、何なのよ、これで戦争が始まっっても、私には責任なんか取りようがないわよ、でも、でも! あんなところで死んでいい人じゃないわ!」 ルイズの声が、漆黒の闇に響く。 『”覚悟”…いや、ワガママだな』 「何とでも言いなさいよ、それに、ウェールズ殿下が誇り高きアルビオンの魂を伝えたいと言うのなら、死ぬべきじゃないわ」 聴きようによっては、自暴自棄になった人間の台詞にも聞こえた。 『俺のいた世界には、”武士道”という本がある』 「ブシド-?」 『この世界風に言えば、貴族道とでも言ったところか…その本には、確かこんなことが書かれていた』 『武士道という花が散っても その香りは残り 人々の人生を豊かにし続けるだろう』 『ウェールズはその”残り香”になろうとした、それを邪魔するのは、ウェールズに対する冒涜じゃないのか』 「ち、違うわよ!」 『どう違う!』 「………わ、私は…私は!」 言葉を続けることが出来ず、ルイズは黙ってしまった。 『ルイズ、俺は”正しい答え”なんか期待しちゃいない、”お前の答え”が聴きたい』 しばらくルイズは黙っていたが、意を決して、口を開いた。 「アンの…アンリエッタの恋人を助けられないなんて、友達失格じゃない。私は王女から密命を受けたんじゃないわ、友達の頼みを聞いたのよ、だから、よけいなお節介をしたのよ!」 承太郎は笑みを浮かべた。 『やれやれ、やっと言ったか』 「へ?」 『貴族としてとか、貴族らしいとか、そんなのは言い訳に過ぎない、ルイズ、お前は『友達の頼みに応じた』それこそ命がけでな、それを覚悟して自覚しているのなら、俺が言うことも無い』 「フン!何よ分かったような口聞いて、使い魔のくせに…偉そうに…」 『俺はもうアドバイスできなくなる…だから、その覚悟だけは聞いておきたかった』 「………えっ?」 承太郎の背後からスタープラチナが現れる、すると、周囲の暗闇がはれ、足下にルイズが見えた。 すぐ傍らにはアンリエッタとウェールズが、二人で治癒の魔法を詠唱している。 「これ、私? え、私、どうなってるの?」 驚いているルイズを無視して、スタープラチナの手がルイズの頭に入り、そして、銀色の円盤をゆっくりと引き出し始めた。 「これ…貴方の、ディスクって奴よね」 『ああ』 「どうして取り出すの?」 『ワルドとの戦いで受けた傷は、俺が引き受けると言ったはずだ』 「でも、秘薬とか魔法で治せばいいじゃない」 『それは無理だな、幽霊のような状態で見ていたが、俺がいると魔法がかからないようだな』 話していくうちにも、円盤がゆっくりと引き出されていく、半分ほど姿を見せたところで、ビシッ、と音を立てて円盤にひびが入った。 『水の魔法でも、魂までは直せないようだ』 ビシビシと音を立てて円盤に日々が広がっていく、それと同時に、承太郎の姿にもヒビが入っていった。 「ちょっと!ねえ、やめてよ 郎!… ? あれ…?」 『これからお前は目が覚める、目が覚めたら俺のことは忘れてしまうだろう』 「待って!そんな、こんな急に、駄目よ!私はまだ、貴方が居ないと、戦えない!」 『俺はお前の記憶を操作した覚えはない、ただ、夢を見せただけだ。ルイズ、お前は俺の記憶を見ただけであれだけの『覚悟』を決めて、成長した、自分に自信を持て』 「イヤだ!忘れたくない!わすれたく…」 ルイズの魂が肉体に引き寄せられると、承太郎の姿はそれにあわせてゆっくり消えていく。 『………もし、娘に会ったら、その時は助けてやってくれ』 そうして、ルイズの意識は闇に落ちた。 「げほっ」 アンリエッタの目の前で、ルイズが咳き込む。 「ルイズ…!」 アンリエッタは詠唱を止めて、ルイズの顔をのぞき込んだ。 「げほっ…はぁ…あ、アンリエッタ姫さま…おはようございます」 「ルイズ…ルイズ!」 「ま、待ちたまえ!」 ルイズに飛びつこうとしたアンリエッタを、ウェールズは慌てて押さえた。 「ウェールズ殿下、私なら、大丈夫です、ほら」 そう言ってルイズが頭の包帯を取ると、顔や頬につけられていた傷は綺麗に治っているのが見えた。 それを見たウェールズはアンリエッタの肩から手を離した、アンリエッタはルイズに抱きつくと、まるで子供のように泣きじゃくった。 ルイズは、アンリエッタを抱きしめながら、何か大事な夢を見ていたはずだと考えたが、とりあえず今はアンリエッタに抱きしめ返すことが先だ。 外した包帯の中から、ヒビの入った円盤が、きらりと輝いた。 To Be Contined → 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1455.html
ゴーレムの肩に乗ったフーケは少しばかり焦り始めていた。 宝物庫の壁が壊れない。確かに硬いと思っていたがここまでとは。 細かなヒビが入っているようだが、一向に崩れる気配が無い。 やはり強攻策に出るのはまずかったかもしれない。もうそろそろ音に気づいた教師や生徒が現れるころだろう。 だが、ここで退いては『破壊の杖』を諦めることになってしまう。 (『破壊の杖』を盗む、自分の命も守る。両方やらなくちゃならないのが「盗賊」のつらいとこね) フーケが覚悟を決め、もう一発殴ろうとゴーレムを動かしかけた時、辺りが急に暗くなる。 上を見上げるとウィンドドラゴンが飛んでいるではないか。 (早いじゃないか!) 予想よりもずっと早い敵の出現。しかもドラゴンときたもんだ。どうもこの学院とは相性が悪いらしい。 「サバス!捕まえなさい!」 姿は見えないが、ウィンドドラゴンの背中に誰か乗っているのだろう。 その誰かが「サバス」に自分を捕まえるよう指令を送っている。 とっさに思いついたのは、このウィンドドラゴンが「サバス」だということ。 急降下してそのまま自分を捕らえる気か?身構えたそのとき、横から声が聞こえる。 「お前には選ぶべき道がある!」 ありえないことだった。ゴーレムの肩に自分以外で乗っている奴がいる。 声のした方を向く。 そこにいるのは、昼間に会ったばかりの謎の「変態」! 百戦錬磨のフーケの体が固まる。 変態が口を開けると、その中から一振りの剣が出てきた。その切っ先は真っ直ぐフーケに向かっている。 「いまさらだけどおでれーた。俺をこんな風に使う『使い手』は初めてだわ」 さっきとは違う軽い口調が変態から聞こえた。 攻撃するか、逃げるか。一瞬の迷いがフーケに生まれる。 それが命取りだった。 「つかんだ」 変態がいつの間にか目の前にいる。その両手はフーケの肩を力強く押さえ込んでいた。 この時点でやっと「逃げる」という選択肢を選んだのだが、時すでに遅し。 体がピクリとも動かない。 ジリジリと仮面のような顔が近づき、口が開かれる。 「そうだ相棒!スピードは出さず!ただしッ!『万力』のような力を込めてッ!」 口の中から剣がフーケに向かって伸びてくる。 剣が自分の顔にゆっくりと刺さっていくイメージが浮かぶ。それを振り払うように、フーケは腹の底から叫んだ。 「うわああああああああああああ!!ワーーナビーーーーーーーー!!」 叫びに応えるように、ゴーレムが暴れ始める。 「ふんばれ相ぼォォォォォォ!?」 「!!」 フーケが体を捻る(といってもほとんど動かなかったが……)。 変態の口から飛び出た剣が頬をかすめて飛んでいく。剣はそのまま地上へ落下していった。 「扱い酷くねェェェーーッ?」とか聞こえた気がするが…………気のせいだろう。 問題はこの目の前の変態だ。これだけゴーレムが暴れてるのに、少しも慌てる様子がない。と。 「フガッ!」 間抜けな悲鳴を上げながら変態は突如フーケの目の前で「爆発した」。 フーケは急に体が軽くなるのを感じ、素早く後ろへ飛び間合いを作る。 「ちょっと!ルイズ!自分の使い魔を攻撃してどうするのよ!」 「ちちょっと間違えただけよ!もう一発いくわ!」 さっきよりも派手な爆音が響く。フーケが音のした方を見ると、さっきまでゴーレムで殴っていた壁から煙が上がっている。 フーケは今度は一切の迷いなく、そこへ飛び込んだ。 そこからの行動はまさに一流の盗賊といえる素早さで、目的の『破壊の杖』を見つけ出し、犯行声明を壁に刻む。 外を見るとゴーレムが炎に包まれている。 どうやらウィンドドラゴンに乗ったメイジたちは、フーケが宝物庫にすでに侵入していることに気づいていないらしい。 フーケがニヤリと笑うと、ゴーレムが歩き出す。それを追いかけてウィンドドラゴンが宝物庫から離れていく。 いろいろ予想外の展開はあったが、最終的に勝てばよかろうなのだァァァァァッ!! フーケはちょっとハイになりながら、宝物庫から飛び降りた。 ルイズたちはシルフィードに乗ったまま巨大ゴーレムの後をつけた。 その間にずっとキュルケの炎、タバサの氷柱、ルイズの爆発がゴーレムを攻撃する。 しかしそれら全てを受けてもなお、ゴーレムの進行は止まらない……。 と、急にゴーレムの足が止まる。 そしてそのまま崩れていき、後には大きな土の山だけが残った。 「…………フーケは?」 「いないわね…………」 「逃げられた」 呆然とする少女達を二つの月が見下ろしていた。 学院からちょうど馬で4時間。 フーケはあらかじめ見つけておいた小屋が見えてくると、やっと一息付いた。 追っ手が来ている気配は無い。 小屋の前に馬を繋ぐと、さっそく盗み出した『破壊の杖』を手に持ってみる。 杖というには変わった形状と、見たこともない金属。 とりあえず杖を両手でしっかり握ると、愛用の杖にするように振ってみる。 …………何も起きない。 もう一度振ってみるが、うんともすんとも言わない。 大爆発が起きるのではないかという不安と期待があったのだが、肩をすくめる。 次に関連のありそうな魔法をいくつか唱える。 唱えるたびにドキドキするが、どれも反応は無い。 フーーと深い溜息をすると『破壊の杖』を地面に置く。さすがは秘宝といわれるアイテム。そう簡単に動かないらしい。 だが、そう簡単に諦める訳にはいかない。 …そう言えば、こういうのに詳しそうなハゲが、困った時は叩いてみるのが秘訣とか言っていたのを思い出す。 試しにショックを与えるために叩いてみる。動かない。今度は踏みつけてみる。動かない。グリグリしてみる。動かない。 なじってみる。動かない。なじりながらグリグリ踏みつけてみる。動かないが、少しイイ気分になった。 だが結局『破壊の杖』に変化は見られなかった。 しかたなくフーケは『破壊の杖』を持って、小屋の中に入っていった。 さて、これからどうするか。使い方が分からないことには先に進まない。 これらのマジックアイテムに詳しい人間は誰だろうと考えて、真っ先に浮かんだのはトリステイン魔法学院のメイジたちだった。 もう一度現場に戻るのは危険だが、まだ誰もミス・ロングビルと『土くれ』のフーケを同一人物と知る者はいないだろう。 そこで何食わぬ顔で学院に戻り、フーケを見つけたと言ってこの小屋のことを教える。 オールド・オスマンの性格からして、王室には頼ることはまず無いと考えられる。すると学院内から捜索隊が組まれるはずだ。 口ばかりの教師陣からして、それ程多くは選ばれまい。2~3人程度だろう。 それぐらいの数なら、あのレベルのメイジが束になってもどうにかできる自信が、フーケにはあった。 トライアングルだなんだ言っても、実戦経験が彼らには無さすぎるのだ。 肝心のところで尻込みしてしまう。……さっきの自分自身のように。 (結局、あいつらはなんだったんだろうね) あの不気味な姿を思い出して、すこしブルーな気分になる。 あのとき、謎の爆発が無ければ自分はどうなっていたことか。 先刻の戦いで何もできなかったことは、それなりにフーケのプライドを傷つけていた。 『破壊の杖』をしまう為に、チェストを開けながら回想を続ける。 冷静になって考えれば、あれはウィンドドラゴンの上に乗っていた誰かの使い魔なのだろう。 あの謎の爆発の魔法もそうなのだろうが……あんな魔法を使えるのは一体誰だ? 深く考えながらも『破壊の杖』をチェストに置く。そして、しまおうとしたその時…… カタ! (追っ手か!) 音がしたほうに杖を向ける。 が、風によって窓が揺らされただけだと分かり、ホッと杖を下ろす。 今回の仕事は危険で奇妙な事が重なり、少し神経質になりすぎているのかもしれない。 (今夜は月が明るいねぇ) 窓から外を眺めるフーケを双月が優しく照らした。 ふと、フーケはある少女の事を思い出す。今頃元気にやっているだろうか。 月の中に彼女の笑顔が浮かぶ。 だが、雲によって月が隠れたことでその幻影も消えた。 ……少し感傷的になっている自分に思わず苦笑する。 冷静にならなくては。本当の勝負は明日だ。今は疲れを少しでも取らなくてはならない。 とりあえず今は「追跡者」は存在しないんだから………… しかし、それは大きな勘違いだった。 主の命令を聞き、愚直なまでに行動し続ける者がいた。 それは巨大なゴーレムに目もくれず、ただ盗賊の後を追い続けていた。 森の木々の影の中を、音も立てずに這いずり回る。 ブラック・サバスは小屋のすぐ側まで来ていた。目的はあの中にいる。 だが入るためには影が足りない。だから待つ。機会が来るまでひたすら待つ。 そのとき風が吹いた。小屋の窓がカタカタと鳴る。 一瞬、本当に一瞬月が雲に隠れる。 それだけで十分だった。ブラック・サバスはすでに小屋の側から、小屋の中へと侵入していた。 フーケの叫びが夜の森にこだまする。 深夜の第2ラウンドが始まった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2550.html
杜王町から遠く離れた町にそびえ建つ刑務所 殺風景とした建物の入り口で1人の男が刑務所の門の前で頭を下げていた。 (…ドラマとかじゃあ大抵の看守はコッチが頭下げても無関心だがマジでその通りなんだなぁ…) コレが出所最初に音石明が純粋に思った感想だった 「確か駅は向こうだったよな…」 刑期を終え22歳となった音石は交差点を横切り、 自分と同じく刑務所に保存されていた愛用のギターをぶら下げながら過去のことを振り返った 三年前、杜王町で彼は虹村形兆が持つ弓と矢により 電気のスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を身につけた 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は自分が思っている以上に成長し、 弓と矢の所有者であり、自分にスタンド能力を与えてくれた 虹村形兆を弓と矢があれば刺激的な人生が送れるかもしれないという理由で コンセントに引きずり込み殺害した その後、自分と同じ形兆の手によってスタンド使いとなった間田敏和を使い 承太郎を始末しようとするものの失敗に終わる さらに『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を成長させ監視を続けた音石は 自分のスタンドがどれだけ成長したかを確かめる為、 ある日の晩、東方仗助の家に忍び込み彼が持つ『クレイジー・ダイヤモンド』に戦いを挑んだ。 ついでに忍び込んだとき彼が思った感想は (こいつゲーム、ヘッタくそだなぁ~おい…) しかし、仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』も自分が思っている以上に成長し 自分は奴を甘く見すぎてたと思い知らされる結果に終わる 考えてみりゃあ、あの時無理にでも全力で 仕掛けていりゃあ負ける事もなかったかも知れねーな…) 自分のかつての行いを後悔しながら彼は道端の自動販売機でタバコを購入し ライターで火をつけ口に咥えながら駅を目指し再び過去振り返った あの時、運良く仗助が億泰と康一を集めていることに感づき スタンドを億泰のバイクのバッテリーに侵入させ 尾行しているととんでもない内容が耳に入ってきた (オレを…見つけ出す事ができる老いぼれのスタンド使いだとォ~~~~っ!!?) 話の内容の老いぼれを始末しようと億泰の バイクを奪い港に向かおうとしたが その億泰が『ザ・ハンド』の能力で瞬間移動を使い、 バイクに飛び乗り追撃してきたおかげであの時は危うく死に掛けた (コレだってそうじゃねーか…、このときは焦らずに億泰のバイクに 息を潜めて留まっておきゃあ効率良くジョセフの船に乗り込むことができたかも知れねーのによ!) 駅に到着し切符を購入し駅のホームに入り電車を待つために 椅子に座り込んだ音石はタバコの煙と一緒にため息をついた その後、音石はSPW財団の船に乗り込む為に模型屋でラジコン飛行機を購入し 杜王港で息を潜めていたがあっさりとラジコン飛行機の移動手段を承太郎に見破られ、しょうがなく承太郎の作戦で港に残った仗助と康一の前に姿を現し彼らに正面から戦いを 挑んだ 戦いは間違いなく音石の優勢であったが仗助の策にハマリ、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を海に落とされるという最悪の事態に陥り 音石明は立ったまま命を落としたものの ギリギリの所で息を引き返し自力で船に進入した SPW財団に変装し、ジョセフをもう少しのところで始末できたものの 億泰の予想を翻した方法によってブン殴られ 刑務所に連行され今までの苦労が全部水の泡となってしまった 「あれからもう三年経ったが随分と早いもんだなぁ~、ええおい?」 ぶら下げている一緒に刑務所を共にしたギターに 相棒のように話しかけ音石は電車がやってくるのを確認した 「刑務所での生活が楽しかったわけでもね~が…まあ,しかし反省はしたぜ あいつらを敵に回すのだけはもう二度と御免なんだ、 帰ったら真剣にてめぇと一緒に スーパーギタリストを目指して熱く生きようぜェッ!!」 キュウイイイイイイイン!! 周りの目も気にせず音石はギターの弦を引くと 電車の扉が開くのを確認し身を乗り出そうとしたその時! 音石の目の前に突然鏡のようなものが現れた!! 「…ッ!?な、なんだこりゃあ!?さっき見たときはこんなもん…」 すると音石は妙な違和感を感じ乗客を見ると彼らは音石に対し 「なに、チンタラしてんだ?」「早く乗れよ…」「なにしてんだろこの人?」 などのような目で訴えかけていた (こいつらには見えていねーのか!?) 何気なくその鏡に触れてみると突然音石の体を飲み込み始めた!! 「うおおおおおっ!!?な、なんだ!新手のスタンド攻撃か!? くそっ…レッド・ホット・チリ…だめだ!間にあわねぇッ!!」 スタンドで対応する間もなく音石明は鏡に吸い込まれていき意識を手放した 「アンタ誰?」 「ああン?」 反省する使い魔! 第一話「過去を反省する使い魔」 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/140.html
見たこともない景色!した事も無い体験!わたしは夢を見ている! また、あの使い魔の記憶だろう・・・はっきりと判る! 無駄な事しやがって!ブチャラティーーーッ! 落ちて行けェェーーッ!! ま・・・まさか・・・ツイてないのはオレの方か!? おかしい事だったんだッ! バカなッ! ブチャラティィイッ! 「ゴバッ!!」 わたしはベットから身を起こした・・・なんだっけ?・・・ ・・・また、凄まじくひどい夢を見た気がする、夢なのに死ぬほど痛かったような・・・ ・・・何かの拍子で思い出したりするんだろうか・・・やだなあ 「おきたか、随分うなされていたみたいだが怖い夢を見たのか?」 先に起きてたのであろうプロシュートが声を掛けてくる わたしはプロシュートの記憶を夢としてみるが、彼はどうなんだろう? 「ええ、悪夢だったわ。あ、あなたは此処にきて夢とかみないの?」 うん、自然に聞けたわ 「そうだな、見たと思うが起きた瞬間に忘れちまうな」 それをきいてほっとする・・・まて何でほっとする べつに、わたしは見られて恥ずかしい記憶なんてない、断じてない! 「それより起きなくていいのか?」 もう、こんな時間! 「ちょ、早くいいなさいよね」 「俺のせいか?」 朝食を食べに食堂に行く。ここの料理長マルトーさんにプロシュートは 大変気に入られ「我らの勇者」などと呼ばれ食事をご馳走になっていた。 あのメイドが中庭の出来事を厨房の人達に話したのだろう。 朝食の後、教室に向かい授業を受けに行く。 プロシュートもわたしの隣に座り黙って授業を受ける。 彼は魔法を使えないのに授業を熱心に聴いていた そういえば、彼は魔法とは違う別の何かを使ってた、アレは一体何なのか? アレは誰も見えていなかった様だ、自分だけに見えてた。 彼は別の世界からきたと言っていた、召喚魔法はこの世界からモンスターを 使い魔とする儀式。だが、夢で見た建物、風景、まったく見覚えが無かった。 彼の能力は別世界の魔法? 「授業はここまでです。各自、予習を忘れないように、以上」 先生の声にはっと我に返る、いつの間にか授業が終わったようだ 「今日の授業の内容、覚えてる?」 部屋に戻りプロシュートに質問してみた 「たしか、魔法の四大系統。火、水、土、風の四つ。失われた魔法、虚無を合わせ 五つつの系統。また、それらの扱える数により、ドット、ライン、トライアングル、 スクウェアといった名称でで呼ばれる」 淀みなく答えが返ってくる。この男、結構頭が良いのかもしれない 「それで、ルイズお前はどのレベルだ?」 話の流れから来る質問に嫌な汗が流れる 「ドットよ、それよりもこれ解る?」 誤魔化すように、わたしは教科書をプロシュートに見せる 「いや、悪いが字が読めねえ」 意外な答えが返ってきた 「読み書きできないの?」 「いや、そう言う事じゃねえ。俺は今イタリア語を話しているんだ」 「イタリア語?」 いきなり知らない単語が出てきたのでオウム返しに聞いてみる 「俺の祖国の言葉だ、にも拘らず会話ができている。ここにいる全員が イタリア語を話しているワケじゃねーよなー」 わたしはコクリと頷く。そんな言葉は喋ってない。 それに関しては心当たりがあるので言ってみる 「使い魔としての能力じゃないかしら、犬や猫を使い魔にすると話せるように なるって聞いたことがあるわ」 「なるほど・・・どうせなら字も解る様にしてくれても良いのによー」 「ま、別にいいんじゃないの、今は特に困らないし」 「そうだな。それより寝なくて良いのか、明日も早いんだろ?」 そうね・・・今日も夢のせいで寝不足だし 「プロシュートは良いわね、ぐっすり眠れて」 途端にプロシュートの顔が険しくなる 「テメー嫌味か?こんな固え椅子と薄っぺらい毛布でグッスリ寝れるワケネーだろ」 彼は彼で我慢していた様だ 「今度の虚無の曜日にソファーを買いに行くわ、それまで我慢して頂戴」 「いいだろう」 今夜は悪夢を見ませんように、わたしは静かに眠りについた
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/967.html
時はギーシュを億泰がフルボッコにする数分前…… 「フン、ご飯抜きは当然の報いよ」 そう言って自分だけお昼に手をつける。 うん、今日も美味しい。 部屋で着替えた後で少~~~し昼寝をしてしまったから、他の皆より遅い昼食だった。 周りは大体デザートに入っているので少し気恥ずかしい。 「掃除はもう終わったの?ルイズ? 少しばかり遅い昼食みたいだけどねー?」 ああ、もうこのキュルケときたらからかう事ばかり。 得意げな顔をして胸を揺らしている。こんなキュルケと家がライバルの自分が憎い。 「あら?そういえば使い魔はどうしたの? まさか一人で掃除させて自分は寝てたとかじゃないわよね?」 正解にすぎる。トリステインはどうなってしまうのか。 「~~~! その通りよ!文句ある!?」 「まあいいけどね。 貴方の使い魔があそこでケーキ配ってても」 「え!?」 キュルケに言われて辺りを見てみると、確かに間抜け面が見つかった。 隣のメイドとそれなりに仲良さそうにケーキを配っている。 (な、ななななによアイツは! なんで勝手にメイドと仲良くしてんのよ! いえ、平常心、平常心よルイズ。 使い魔が言うこと聞かないでメイドに餌付けされた位でなんだっていうの。 後でご飯を抜いて……ってもう一週間抜いたんだったァー!) そんなこんなで悩んでいるルイズをキュルケが可愛い物を見る目でこっそり鑑賞しだした頃、 ふと勘違いのギーシュの辺りでモンモランシーと知らない少女の怒鳴る声、それからガラスの割れる音が聞こえた。 見ると、ツープラトンを食らっているようだ。 「あちゃー、ギーシュってば手酷くやられたわねー」 「……自業自得じゃない」 あれ?いつの間にかアホのオクヤスが厨房に戻って出てきて…… と時がすっ飛んでいることにルイズが気づくのと同時に、メイドが土下座をしていた。 ボーッとそれを見ていると、今度はオクヤスがギーシュとなにやら言い合いを始めて…… 気づいた時にはもう億泰がギーシュをフルボッコにしていた。 白目を剥いて鼻血と舌をダランと垂らしたギーシュの襟首を掴んで殴っている。 暫くすると手を離されてギーシュが床に沈みこむ。 さっき取り巻いてた友人達が引っ張ってく様子を見て、 マリコルヌと一緒におねんねするのね、とルイズは思った。 「って何をやってるのアンタはーーー!?」 メイドに手を差し出して立たせていた億泰へと詰め寄ることにした。 「お、オクヤスさん!? 逃げてください!貴族を殴っちゃうなんて! 殺されちゃいますよ!?」 「そ、そうよ! アンタ何考えてやってんのよ! 今度は魔法使ってくるわよアイツは!」 「いや、別になんも考えてなんてねーけどさ」 それを聞いてルイズとシエスタはサッと顔を青くし、周囲の生徒は皆ずっこけた。 「考えなしでギーシュをボコボコに!?平民が!?」 「いや、別にギーシュはどうでも良かったけどアホかアイツは!」 「へへ、あの平民が何日生き残れるか賭けようぜ! 俺は一日目でだ!毎食のはしばみ草のサラダを賭けるぜ!」 「Bad!もっとまともな物を賭けるんだ! 僕は三日で……この十枚を賭けよう!」 「Good!」 「ああ、どこに行ってたんだアンジェロ岩! 心配したよ急に居なくなってるもんだから!」 アギ…… 「~~~~! 出かけるわよ!用意しなさい! メイド、アンタは馬の支度!」 喧騒をよそにルイズがシエスタと億泰を食堂から引っ張り出して命令する。 「え、あの、ミス・ヴァリエール? 午後の授業は言ったいどうするんですか?」 「サボるわよ…… 町にいくの。少なくともギーシュが起きあがる前までに剣を買うわ。 丸腰よりは幾らかマシだもの」 「剣~~~? オメーが使うってのか~~?」 「アンタのよ!」 そして三時間後 「腰がいてェェ~~!」 「情けないわね、馬にも乗った事ないなんて。 それより気持ち悪いからその歩き方なんとかならないの? 相当人の目を引いてるじゃないの」 トリステインの城下町へと辿り着いた二人の様子は対照的だった。 映画のセットのような街中をひょこひょこと内股で歩く学生服の億泰。 それを気持ち悪い物を見る目で見ているルイズ。 そして億泰の(主にケツを)見ているイイ男数人。 「というか、アンタ感謝の気持ちが足りてないでしょ。 生存確率上げてあげようと思ってわざわざ町まで遠出したのに……」 「だからよォー、いらねーっつったじゃねーか」 「メイジの魔法って物を分かってないわね。 そんなんじゃ本当に死ぬわよ?さっきの逆の構図で」 馬の上でも何度も交わした問答だったが、 改めて言っても無駄だったので億泰は諦める事にした。 「それより、預けた財布は大丈夫? 大通りなんだからスリ多いのよ?」 財布は下僕が持つ物だと言われ馬から降りるなり財布を預けられたのだ。 ずっしりとした感触に顔がどうしても綻ぶ。 「大丈夫だってーの。 こんな小さな通りでよぉ~~スられっかって」 「小さいって……この町一番の大通りよ?ここ」 そう言いながらもルイズは更に狭い路地裏へと入っていく。 汚物やらゴミやらが道端に放置されていて、 入ってきた二人に気づいた猫が子犬を咥えて走り去っていった。 「うわ、見るからにヤバそーですって感じだなァー」 「だからあんま来たくないの。 ほら、さっさと用事を済ませるわよ」 そう言ってルイズは路地裏を進んでいき、やがて一軒の店へと入っていった。 億泰が看板を見ると、剣の形をした銅の看板がかかっている。 どうやら武器の店らしいな、と思いながら億泰はルイズに続いて店内へと入った。 店の中は昼間だというのに薄暗く、所狭しと並べられた武器防具がランプに照らしだされていた。 奥には五十絡みの親父がたるんだ顔してパイプをふかしている。 「レストラン・トラザr じゃねーや、こんな所へ何の用だい?おじょうちゃ……」 くわえたパイプを離し、ドスの利いた声で言いかけた所でルイズの服装に気づいたらしい。 胸元の五芒星に目をやると、途端に態度を変える。 「旦那。貴族の旦那! うちはまっとうな商売をしてまさあ、お上の目にさわるような事はこれっぽっちも! もう『ゼロ』でさあ!」 「客よ」 『ゼロ』に反応してムカつきながらも、ルイズはそう言って物色しだす。 やがて、自分では剣の良し悪しなんて分からない事を理解して億泰に尋ねる。 命が懸かってる分本人に尋ねた方が分がいいだろうと考えたのだ。 「ほら、どんなのが欲しいの?」 「ってもよォ~俺帰宅部だったしそんなん分からねーって」 「アンタ自分の命懸かってるのがわかんないの!?」 そう言い合う二人を見ると、店主はいそいそと奥へ引っ込んでいく。 そして、倉庫に入る前に振り向いてニヤニヤと笑いながら小声で呟いた。 「ド素人どもめ、鴨葱ってやつか。 せいぜい高く売って儲からせてもらおうかね」 やがて店主は奥から1.5メイルはあろうかという立派な剣を油布で拭きながら持ってきた。 両手で扱える程の柄の長さに、ところどころ宝石が散りばめられている。 「なるほど、確かに昨今は貴族の方々の間で下僕に流行ってますからね。 そこの兄ちゃんはガタイもいいし、コイツでもきっと扱いきれますな。 どうです?コイツはこの店一番の業物ですぜ」 その輝きにルイズも億泰も魅入られたのか、覗き込んだ。 やがて、ルイズが聞き出す。 こいつでいいやと思ったのだろう。見栄っ張りのルイズらしい所である。 「おいくら?」 「へい、何せこいつはかの高名な錬金魔術師シュペー卿が鍛えた一品でしてね、 ちょいと値が張りますぜ?」 「私は貴族よ?ほら、もったいぶらないで言いなさい」 「エキュー金貨で二千、新金貨では三千になりますな」 その値段を聞いた途端、ルイズがあんぐりと口を開く。 億泰はサッパリこちらの金銭感覚が分からないのでポケーっとしていた。 「ドンくらいの価値なわけ?これ」 「森つきの庭と立派な邸宅が買えるくらいよ」 「……ハァ?何言ってんだてめー! 俺達からボろうってでも言うのかコラー!」 「お、おい、勘弁してくださいよ兄ちゃん。 うちの品物にケチつけるってのかい? 青銅だって真っ二つだし、青銅や青銅や青銅のゴーレムが殴った程度じゃ折れない代物なんですぜ?」 弁解と追求の争いが始まろうとしたその時、乱雑に積まれた剣の山の中から声がした。 低い男の声だ。 「おいおめえ!ケチつけるんなら証明でもすりゃーいいじゃねえか! 鉄を切るだとか剣がダメになるだとかの前に腕が壊れるだろうがな! むしろ棒っきれでも振ってんのがお似合いだぜ猿野郎が!」 「ん、んだとてめー!」 いきなりの悪口にムカっ腹が立った。 しかもいつもと違うバリエーションだったためにより一層だ。 しかし、声がしても姿が見えない。 「デル公てめえ!商売の邪魔する気か! せっかく良い値でだま……っと、売れそうだってのに!」 「黙ってろいオヤジ! ほらほら、帰んな貴族の娘っ子!」 「失礼ね!」 怒鳴るルイズをよそに、億泰は声の方へと近づいていく。 そして、剣の山の中から一本の剣を引き抜く。 「まさか、おめーがしゃべってんの?」 「そうだぜこのボケナス!」 それは薄手の長剣だった。 しかし、錆がところどころに浮いてとてもじゃないが使えそうとは言えない。 「ほォー!剣がしゃべんのか!おもしれーな」 「それって、インテリジェンスソード?」 ルイズが当惑した声を出してその剣を見た。 「そうでさあ若奥様。意思を持つ魔剣インテリジェンスソードでさ。 どこの物好きが始めたのか、剣をしゃべらせるようにした奴なんですが…… いかんせんこいつは性格は悪い、口は悪い、喧嘩早いととにかく嫌な野郎でして。 おいデル公!失礼はそこまでにしときな!それ以上すると川底に沈めるからな!」 「そん時は魚に話して岸まで運んでもらうから構わねえぜクソオヤジ!」 「なんだとこの野郎!孤独だよ~!って喚いてもゆ、許さないからな!」 歩き出す主人を億泰が手で制す。 その表情は新しいおもちゃを手に入れた子供、 あるいは康一が由花子に初めて呼び出されたシーンを見た億泰のようだ。 「おもしれーじゃねーか。 俺よォ~、このデル公でいーぜ?」 「え?い、嫌よそんなの。 『ぜ~~~~ったいに負けんのだあ!』とか叫びそうじゃないの」 「俺様はデルフリンガー様だ!デル公じゃねえ! さっさと放せ三下!……?」 ルイズと一緒になって抗議しだしたデルフリンガーだったが、ふと押し黙った。 そして、暫くたってから再び話しはじめる。 「おでれーた。てめ『使い手』じゃねえか。 ああ。あんなナマクラよりは損はさせないから俺を買え」 「ん、だから買うっつんじゃねーかよォ」 そう億泰が言うとすぐにまた押し黙る。 「チッ…… まあ、ソイツなら厄介払いで百で結構でさあ。 どうしやすか?相場なら数百は頂きやすし、そいつ鞘に入れとけば黙りやすんで」 ウッとルイズは息がつまる。 財布には数百も無い。せいぜい二百が良い所だったのだ。 だから、それを気取られないように精一杯虚勢を張って言う。 「仕方ないわね……こいつでいいから買ってあげるわ」 「ヘイ、毎度あり!」 そうして、デルフリンガーを抱えて二人は出て行った。 途端に武器屋には静寂が戻ってくる。 「フン、今日はもう店じまいにするかね。 五月蝿いのがいなくなってせいせいしたしなあ」 酒瓶を取り出しながら親父は独り言を漏らす。 「ま、これで儲け話を零さないで済むんならマシってもんよ。 なあ?そう思うだろおめーら。 ……チッ、今日はやけに酒が塩辛いな」 親父の呟きは、ガランとした店の中に消えていった。